わしの日記
1997/04/19 (土)
SF『2005年、サイキックの時代』
序章
「宗像のバカがな、あー、『勝ち抜きエスパー合戦』に出るんだと」
デンワの中の野々村は、嬉しそうに身をよじらせて笑っていた。
「あれか、先週俺は忙しくて見れなかったんだが」
「あー、んー、先々週のキングな、ほら、自分の背を30cm伸ばした奴」
「見た見た」
「あれな、背骨痛めて入院しちまってな」
「じゃ今のキングは誰なんだ」
「んー、つまらん奴だよ。口に電球をくわえて」
「光らすのか。それ、前に同じことやった奴が居たろ?」
「いや、今度のはな、口に電球をくわえて、自分の目玉を光らせるんだ」
「ぷはは。フェイントか」
「フェイントだ、最近は、フツーの超能力じゃ笑いも取れないからな」
そういうボケが評価ポイントになるなら、宗像のバカにも、いや、バカであるがゆえに、勝ち目があるかも知れない。俺は何だかうきうきしてきた。
「放送は今夜か」
「あー、こりゃ見ものだよ、んー」
「でも、宗像の嫁さん、そういうの嫌いだろ」
「いや、近頃はNHKの『趣味の念写』なんか見とるらしいぞ」
「……うーむ。バカがうつったな」
「バカがうつったんだ」
「嫁さん、3ヶ月じゃなかったか??」
「そうだ、すげーバカガキが出来そうだ」
「困ったもんだ」
「全くだ。嫁さんな、念写アートか何か知らんが、二科展入賞を目指しとる」
「二科展に念写部門なんてあったか???」
「あー、あるさ。知らないのか? 天文写真とか、投稿写真とかと同じ、立派なジャンルだぜ」
「投稿写真はジャンルか?」
「……あっ。おほん、おほん。とにかく。念写って言わないんだよ、サイコフォトとか言うんだよ」
「ふん。くだらない時代だな」
「ほら、あのタバコのCMやってる若僧」
「あれか、サイキックアーティストとかいう奴?」
「そうそう。段ボールに念を込めてオブジェ作る奴。あいつも」
「念写やるのか」
「そっちが本業なんだよ。ウチの会社がスポンサーやってる時代劇あるだろ」
「『大江戸透視網』か」
「それは終わった、ほら、超能力で、下手人の顔が、背中の刺青に浮き出すやつ」
「杉良太郎だったかな」
「えーと、そうじゃなくて、高橋英樹が般若の面を付けてテレポートしてくるやつだよ」
「あれつまらないからなぁ、思いだせない」
「あれのタイトルバックな、 あいつの念写作品だ」
「……うーむ。そりゃいいけど、宗像は何やるんだ」
「一応5週勝ち抜ける芸はあるらしい」
「しかしなぁ、よく出演できたなぁ」
「とにかく、今夜は皆集めよう。上映会だ」
「あれ生なんだよな」
「最近あの手のテレビはみんな生だよ、録画って今、無いんじゃないか」
「宗像はもう行ったのか」
「あー。じゃ今夜おまえン所に皆集めるからな」
俺はデンワのスイッチを切ると、急いで朝メシにとりかかった。今は12時である。
(続かないと思う)